「ネココさんとウササさん」
作:小笠原毅
おはなし「ネココさんとウササさん」
むかしむかし、とあるひきこもりのネココくんという人がおりました。
ネココくんはなんとか意を決してひきこもりから抜け出し、アルバイトを始めようとしました。そしてなんとかアルバイトが見つかり、雇ってもらえることになりました。
アルバイトの初日、ネココくんはある事を決めていました。それは、自分が同性愛者であることを自己紹介で言ってしまおうということでした。
ネココくんはこれまでそのことでずーっと引っかかって、何をやってもうまくいかず、他人の目が気になってしょうがなかったのです。
そしてネココくんは、バイトのみなさんの前で言いました。
「今日から入ったネココです。よろしくお願いします。あと、自分は同性愛者です。」
すると、その場にいたウササさんという人が、ネココくんに噛み付きました。
「はぁ!?なんだそりゃ??同性愛者!?いきなりそんなもん告白するなよ!!」
それ以来、ネココくんはウササさんから毎日いびり倒され、「男のくせに!」「気色悪い!」「人間じゃない!」などと面と向かって毎日なじられました。
なんとかアルバイトを始めたはずのネココくんでしたが、ついに精神がまたおかしくなり、働けなくなってしまいました。身体が動かないのです。
こうして、ネココくんはまたひきこもりに戻り、以前よりも重症になってしまいました。
それから数ヶ月後、ネココくんは部屋で死んでおりました。すでに死体は腐敗した後で、ひからびて骨が剥き出しになっていました。ネココくんのそばには、七輪が置いてありました。
その近くにはノートが置いてあり、開かれたページにはアルバイトをやめてからしばらくの日付とともにこんな風に書いてありました。
「ウササさんはノンケの人だったんだもの、ああ言われても思われても仕方ない。軽軽しくカミングアウトしてしまった自分の責任だ。ウササさんはノンケの人だったんだもの。ノンケだったんだもの。」
ふと、ネココくんの携帯電話にメールの着信音がしました。そのメールには、こんなことが書かれていたのです。
「ネココくん、久し振り。ウササです。お元気ですか。あの時はあんな風に君に接してしまってすいませんでした。実は、僕も同性愛者なのです。しかし僕は実生活では同性愛を徹底的に隠して生活しているのです。今の生活も親や友達との関係もその上で成り立っています。なので君があんな風におおっぴらにカミングアウトすることで、僕が隠していることにまでバレたらどうしよう、こっちにまで影響があったらどうしよう……そんな風におもって、あんな風に接してしまいました。『この国でカミングアウトして受け入れてもらおうなんざ甘えてる!』とも思いました。ですがいま思うと、同時にうらやましくもあったのです。ネココくん、僕も今度このアルバイトをやめることにしました。それで、僕も少し自分の性の問題について、思いなおしてみようかなと思いました。それでネココくんと会って話したくなりました。ネココくん、よければ会いませんか。あんなひどいことをしてしまった僕だけど。」
そんなメールが届いた携帯の傍らで、ネココくんは今日もひからびているのでした。ネココくんは明日も明後日も多分、干からび続けるのです。
おしまい。
