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「第3話 カーネル・サンダース」
朝だ。ニートであろうとフリーターであろうと誰にだって朝は来る。同じ様にどんな人にだってきっと人生をやり直すチャンスは必ず来る。私たちはいつでも変わることができるのだ。もし私たちにやる気さえあれば。そして私はもう一つ知っている。ベッドでいつまでもごろごろとしていることがどんなに気持ちいいことだったとしても、私たちはいつでも立ち上がることができるということを。やる気さえあれば不可能なことなど何もない。私はそんなことを考えながら、いつもの様にベッドから起きて、歯を磨き、着替えて、外に出た。夏の太陽が眩しかった。だが私は会社に向かっていたわけではない。私は今日もまた、家の目の前にある一本松公園に向かっていたのだ。
そして公園の中に入ると、私は松の木の下にあるベンチに座り、ある男のことを思い出していた。カーネル・サンダースである。ケンタッキーフライドチキンのおじさん、と言ったほうが分かりやすいかもしれない。なぜこんな希望に光り輝く朝に、かわいい女の子のことではなくて、そんなおじさんのことを考えることができるのだろうと疑問に思う読者もいるかもしれない。私自身でさえも疑問に思っている。そうかお前はやっぱり変質者だったのか、と言われてもしょうがないかもしれない。だがはっきり言っておくが、私は変質者ではない。ただ、私は彼のことを考えずにはいられない。考えずにはいられないのだ。なぜならそれは、カーネル・サンダースは、私、いや私だけなく世界中にいるフリーター達にとって最大にして最高のスーパーヒーローだからである。
ケンタッキーフライドチキンという大企業を創立したカーネル・サンダース。しかし彼はなんと小卒で、40歳になるまでいろいろな職を転々としたフリーターだった、という事実はあまり知られていない。私は最初その事実を雑誌か何かで読んで知ったと記憶しているが、その時私は自分の目を疑わずにはいられなかった。そして心の奥から込み上げてくる怒りによって、私の体はプルプルと震えていた。「彼の両親は一体何を考えていたのだろう。最低だぜ!」それが私の第一声である。どうして彼の両親はなんとかして彼を学校に行かせてあげることができなかったのだろうか、と私は考えていた。たとえどんなに彼は全く勉強ができない、ケンカばかりしていた非行少年だったとしても、そういった学生でも入学させてくれる学校を探したり、もしくは専門技術を身につけるためにどこかに弟子入りさせたりと、何か手はあったはずなのだ。
しかし彼は十分な教育を受けることができずに、15歳から仕事を始めて40歳までの25年間で、40種以上の職を経験することになる。彼が転職する際にはいつも、履歴書を書くのに大変苦労していたはずだ、と私は想像する。面接では「はあ、好奇心が旺盛で、いろいろ経験したいと思いまして・・・」などと、長所に変えてアピールしていたのだろうか。「やっぱり仕事も、女性とのお付き合いもたくさん経験したほうがなんでもうまくなりますな・・・」などとウケを狙ったりもしたのだろうか。転職先の人事部担当も困っていたに違いない。今では誰もが知っている成功者の一人なので想像するのが困難だが、彼は若い頃には典型的な負組みの一人だったのである。
しかし彼は40歳の時、ある重大な決意をする。そしてそのことが彼の人生を劇的に変えることになった。それは結婚ではない。そしてそれは犯罪でも、自殺でもなかった。なんと彼はガソリンスタンドのレストランを開業することにしたのである。それは彼の人生の全てを賭けた一発勝負だった。もう彼には失くすものは何もない。やってみる価値はあった。そして彼は起業に成功した。彼のレストランは素晴らしいサービスで評判になった。彼はやっと4人並みの中流の生活ができるようになった。「ついに人生バラ色だ」と彼は喜びの絶頂だったに違いない。だが、悲しくも成功はいつまでも続かなかった。彼が60歳になる頃、近くで新しい高速道路が開通すると、お客が減ってしまいなんと彼の店はつぶれてしまったのだ。こんな波乱な人生があっていいのだろうか、と私は天に問う。60歳でまたしても彼は全てを失ってしまったのである。
しかし彼のすごい所はここからである。もう誰もが彼の人生は終わった、と思っていたに違いなかった。私も彼と同じ立場だったなら、「ああ、もうわしも60じゃ。人生はこんなものじゃ」と残りの人生をのんびりと謙虚に暮らそうと思っていたに違いないと思う。貯金と年金だけで。だが彼は違った。彼はまだ豊かな生活への夢を捨てきることはできなかった。そして彼はレストランを経営していた時に培ったおいしいフライドチキンの作り方のノウハウを他のレストラン経営者に教えて、お金をもらうという、その時世界で初めてだったフランチャイズビジネスを始める。彼は車でアメリカ全土を回って、営業し、たくさんの契約を取っていった。彼が65歳の頃だった。そしてこのフランチャイズビジネスは大成功し、今のケンタッキーフライドチキンになったのである。もうただのフリーターではない。彼は世界中の人から愛され、尊敬されて止まない男に大変身した。そしてありとあらゆる場所で彼の像は建てられていく。人生の9回裏、2死満塁の大逆転ホームランだった。
このストーリーは私に希望と勇気を与えてくれた。長い人生、必ず成功するチャンスは来るのである。たとえ小卒のフリーターでも。たとえ65歳のおじいちゃんでも。だが誤解しないでほしいが、私はだから別に何もしなくてもいい、と言っているのではない。ただ私は誰にでもチャンスはある、ということをいいたいだけだ。そのチャンスをものにできるかどうかは私たち次第である。(じゃあお前は朝から公園でフラフラして、いったい何をやっているんだ、という突っ込みは勘弁してほしい)最後に、これは有名な話なので知っている人は多いと思うのだが、カーネル・サンダースはあの国民的漫画「スラムダンク」に登場する安西先生のモデルにもなっている。私は安西先生の「あきらめたら、そこで試合は終了だよ」という伝説の言葉と共に青春時代を過ごした一人だが、実際のモデルになったこの人物は言葉ではなく、彼の人生を通して私たちに同じメッセージを言っていたのだと思う。彼の人生は私たちにこう語るのだ。「あきらめたら、そこで人生は終了だよ」と。
