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投稿原稿:「シタマチックな人々」(1)

ほんのたまに学習意欲が湧き上がり、図書館に行く。すると、必ず出会う初老の男性がいる。多分、休館日以外は図書館に顔を出す常連なのだ。閲覧室では、周囲をヘイゲイできるような場所に指定席を持っている。昼と夕方の食事時には、テーブルの上にはページの開いた読みかけの本を置き、さり気なく優先権を確保して席を立つ。
 
こちらの後ろを回ってトイレに行くときは、背後に“キミは、何読んでるのかね”というように鋭い視線を感じ、ちょっとムズがゆいような気分にさせられる。
 
常連ともなると館員ともツーカーで、モウローとした喋り方で要領を得ない老人に新米館員が「はぁ?」と戸惑っていると、スッと席を立ち、「そうじゃないでしょうが。この人が借りたいのは古い新聞だろ。ねぇ、そうだよね」と、いそいそと仲立ちの助け舟を出す。
 
ボクはいつしか、内心で常連を図書館の主、略して“トヌシさん”と呼ぶようになっていた。駄犬を散歩させているとき、自転車を駆る“トヌシさん”と擦れ違った。一瞬、“こりゃマズイ”と目を逸らした。しかし、目ざとくボクをウォッチした“トヌシさん”は自転車を停め、「キミィ、今日は図書館には来ないのかい?」と声をかけてきた。
 
口の中でモゴモゴやっていたら、「アンタの読んでた、アレね、ありゃぁコクのある、いい小説だわな」と言われ、“とてもじゃないがコクのあるなんて、アレは、ただの青春ストーリーで…その……”と、ドギマキしてしまった。要するにからかわれているのだ。背後からの視線は、やっぱりタダモノではなかった。
照れ隠しに「これからお食事ですか?」と聞いたら、「なーに、ただのコーヒーブレークさ」と言う。エッ!このゴマシオ頭に無精ヒゲのむさくるしいオッサンがコーヒーブレーク(!?)。オカシさを堪えていたら、「コーヒーは、やっぱりブルーマウンテンに尽きるね。キミどう思うね?」と感に堪えぬように言う。返事のしように困ったが、「そうすっねぇ、モカもいいけど……」と苦し紛れに言うと、「そんなもんかね」と、さも“アンタとは話にならんわ”と蔑んだような表情を残し、去って行った。私はポカーンと見送るしかなかった。
 
その数日後、公園を散歩していたら、石塀にポコンポコンとボールをぶつけては捕っていたオジサンが、「ちょっと練習の相手してくれると助かるんだがなぁ」と、キャッチャーミットを差し出してきた。あまりに“助けて当然”な調子で言うもんだから、「いいっすよ」と付き合ったけど、限りなくコントーロルゼロにちかい超スローボールを受けさせられた挙句、「明日も付き合ってもらうと助かるんだがなぁ」と迫られてしまった。
 
“男はつらいよ”の寅さんで知られる葛飾柴又の帝釈天近くに引っ越してきてから、こんなことの連続ドラマだ。
 
下町のオジサン、オバサンは人懐っこいというか、マイペースというか、困ったちゃんと無邪気さの微妙な境い目を往く人が多い。埼玉の文教都市として知られる地で暮らしてきたボクは、カルチャーショックを受けながらも、しだいに下町の馴染んでいくようで、怖いような、我ながら頼もしいような複雑な気分でいるのだった。

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2008年06月02日 13:51に投稿されたエントリーのページです。

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