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第29回 淡々と
明日18日、弟が退院する。術後の経過は想像したほど悪くないようだ。弟はすぐにでも帰りたいのだろう。退院日を自分で決めた。
1月30日。肛門切除の手術日。俺とお袋は密着取材をしているテレビドキュメンタリーのディレクターの車に同乗し、午前10時に病院へ。手術予定が延びた。14時45分手術開始。5時間後に手術終了。ひたすら待ち続けた。精根尽き果てた。20時45分頃、チラッと弟の様子を見ただけで帰宅した。
テレビのドキュメンタリーは1月26日から31日まで俺の実生活に密着し続けた。2月15日。俺の精神科通院の場面を撮って、ひとまず終了となった。
精神病院の中への取材は拒否された。ディレクターは診察模様なども撮影したかった。俺自身も異存はない。が、病院側は具体的な理由も提示せずに撮影を断ったという。当日は俺の通院する様子を病院の入り口までと出口から出るまでだけを撮影した。
この密着取材はテレビ放送が未定だ。見切り発車の状態で撮影が始まった。ディレクターはこの取材に手応えを感じていると言った。良い作品になると。その情熱に頭が下がった。「絶望男」への期待と共感があった。理解してくれた。俺は嬉しかった。
テレビ局は違った。最初に予定していた日本テレビは放送を却下した。TBSもダメだった。ディレクターはテレビ朝日に企画を持ちかけているところだと言った。結果は3月中に出るらしい。
お蔵入り。世に出ない可能性が強まった。「絶望男」の出版後も媒体の取材は皆無だ。世間は「絶望男」に無関心らしい。売れ行きも芳しくないようだ。
反響もあまり伝わってこない。そんななか、日常生活は実に平穏。外出しても家に居ても何も変わらない。マスコミが期待するような「激烈なドラマ」などない。あまりにマスコミが無関心なので、犯罪事件でも起こして注目を引くことを考えた。アホらしい。そんなことをしでかさなければ動かないマスコミ連中の軽薄さがアホらしい。それは同時に世間の軽薄さに通じる。
ふつうの日常生活の淡々としたなかにこそドラマがある。事件やあからさまな感情の露呈など、普段の生活に滅多に現れるものではあるまい。
テレビ放送は本の売り上げに効果的だと思う。と同時に俺の真実の姿を世間に知ってほしかった。日々何を想い、どんな日常を送っているのかを。そこに嘘のない現実がある。
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いままでの「絶望男の逆襲」
2007.7.12 第1回「笑顔のない男」
2007.7.18 第2回「孤立感」
2007.7.23 第3回「天涯孤独になるまで」
2007.7.30 第4回「やせ我慢」
2007.8.8 第5回「絶望の根っこ」
2007.8.27 第6回「人間のクズ」
2007.8.27 第7回「登校拒否」
2007.9.3 第8回「昼夜逆転」
2007.9.3 第9回「無常」
2007.9.10 第10回「人から逃げよう」
2007.9.25 第11回「欝屈」
2007.9.25 第12回「願わくば」
2007.10.9 第13回「家族と孤独」
2007.10.22 第14回「歪み」
2007.10.22 第15回「否定できないもの」
2007.11.26 第16回「精神障害」
2007.11.26 第17回「だるま」
2007.11.26 第18回「母の贖罪」
2007.11.26 第19回「因縁」
2007.11.26 第20回「悪意」
2007.11.26 第21回「小さな世界の小さな存在」
2007.12.18 第22回「孤独な年末年始」
2007.12.29 第23回「恩人」
2008.01.08 第24回「友人Y」
2008.01.14 第25回「抑鬱」
2008.01.14 第26回「忍耐」
2008.01.21 第27回「創造性」
2008.02.05 第28回「自滅願望」
