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第23回 恩人
忘年会があった。07年12月15日。つい2日前だ。主催者のKさんはひきこもっていた20代後半の俺に仕事を世話してくれた人だ。定期清掃や身体障害者の介助などやった。
当時の俺はKさんの助手だった。まだ真っ暗な早朝3時にワゴン車に乗り、現場に行った。レストランの定期清掃は始業時間前に済ませねばならない。誰もいないレストラン。真冬だった。4時だ。6時までしか時間がない。イスやテーブルを調理場に寄せた。水を撒いた。モップで吹き取る。ガムなどが床に付いている。かわすきという道具で剥がす。床の水を吸水器で吸い取る。ワックスを塗るのはKさんの仕事だ。俺は何度もワックスの付いたモップを水道でゆすぐ。手がかじかんだ。一連の作業が終わった。次は反対側に調理場のイスやテーブルを寄せる。同じ作業を繰り返す。Kさんも俺も汗まみれだ。青いつなぎ(作業着)に汗の染みが浮き出ていた。6時前作業終了。近くのファミレスで食事をし、事務所に。道具一式を下ろす。次の仕事へ。身体障害者の送迎だ。
ビルもやった。ハウスクリーニングは一日がかりだった。作業終了後に不動産からクレームがついた。清掃の終わった部屋に戻り、わずかなゴミを掃いた。常にKさんと行動した。引っ越しの仕事で長野まで行った。途中のインターチェンジでは狭い車のなか、Kさんと俺は折り重なるように仮眠した。一日ただひたすら工事現場から出たコンクリートの塊を外に運ぶ仕事もした。あるハウスクリーニングでは糞のこびり付いた便器に手を突っ込んで掃除をした。
作業はきついが、つらくはなかった。Kさんとは何でも語り合った。眼鏡をかけた。入れ歯もつくった。Kさんの勧めだ。精神障害者だからこそ、ひきこもりだからこそ、世間になめられるなと教わった。プロとしての仕事とボランティアの違いを学んだ。金を取る。その尊さを知った。彼との約6年間がなかったら、今の俺はない。
Kさんは現在51歳。忘年会での彼は若々しかった。ニート問題に熱が入った。Kさんの出会う若者に多いそうだ。苦々しい表情だった。「ニートはさ、プライドが高いんだよな」俺は言った。「やりもしないでやりたくないって言うよね」Kさんはうなづいた。
俺は納得した。やれることはやった。人が嫌がるような汚れ仕事も手が凍りつきそうな仕事も俺はやってきた。何事もやらないで諦める若者が多いように思う。やってみてから決めればいいのに。またもKさんから学んだ。
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いままでの「絶望男の逆襲」
2007.7.12 第1回「笑顔のない男」
2007.7.18 第2回「孤立感」
2007.7.23 第3回「天涯孤独になるまで」
2007.7.30 第4回「やせ我慢」
2007.8.8 第5回「絶望の根っこ」
2007.8.27 第6回「人間のクズ」
2007.8.27 第7回「登校拒否」
2007.9.3 第8回「昼夜逆転」
2007.9.3 第9回「無常」
2007.9.10 第10回「人から逃げよう」
2007.9.25 第11回「欝屈」
2007.9.25 第12回「願わくば」
2007.10.9 第13回「家族と孤独」
2007.10.22 第14回「歪み」
2007.10.22 第15回「否定できないもの」
2007.11.26 第16回「精神障害」
2007.11.26 第17回「だるま」
2007.11.26 第18回「母の贖罪」
2007.11.26 第19回「因縁」
2007.11.26 第20回「悪意」
2007.11.26 第21回「小さな世界の小さな存在」
2007.12.18 第22回「孤独な年末年始」
