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絶望男の逆襲 第18回「母の贖罪」

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第18回 母の贖罪
 
俺には結婚願望がない。考えたこともなかった。12年ぐらい前の俺は心理学を学んでいた。フリースペースTでピアカウンセリングをとある若い女性と行った。女性に冗談半分で「俺と結婚する気ある?」と言った。カウンセリングのテーマは結婚だった。彼女には結婚願望があった。「白井さんは不安定だからダメ」と彼女は言った。俺の経済的な意味での不安定さを指摘したのだ。恋愛感情もないと言った。このとき、結婚がこの世に存在する事実を初めて意識した。同時に金のない奴は結婚できないと知った。ちょっとした衝撃だった。無職な男はこの社会では不利益な存在(役立たず)だと気づいた。
 
お袋は好きで親父と結婚したわけではない。双方の親戚の策略結婚だった。若い頃の親父は酔っ払っては暴力を振るっていた。手がつけられなかった。親戚は困り果てた。その頃、身体障害者のお袋も親戚には「お荷物」だった。親戚同士は示し合わせるように親父とお袋を結婚させた。親戚は厄介払いができた。
 
お袋は信仰に熱を入れた。先祖供養に救いを求めた。親父は信仰を嫌った。読経中のお袋に暴力を振るい続けた。お袋は耐えた。集会に参加し続け、修業地のある伊豆にも2泊3日、年に4回は出かけた。俺と弟も集会や伊豆に行かされた。読経もした。お袋は先祖供養こそ救いだと信じて疑わなかった。親父は家を放ったらかし、信仰にすがるお袋を憎んだ。暴力は日増しにひどくなった。
 
俺がまだ10歳の頃だ。夜中に腹が痛くなった。お袋に腹の痛みを訴えた。親父も弟も寝ていた。お袋は俺の腹を数珠を持った右手でさすった。左手は不自由だ。読経をしながら右手を腹を上下にさする。その手が俺のチンコに触れた。最初のうちは良かった。お袋の読経も右手の感触も。お袋の右手が俺の毛も生えていないチンコを明らかに触ってきた。不快になった。意味がわからない。お袋は俺のために腹をさすっている。そう思うとなぜチンコに触るのかなどとは言えない。しばらく我慢した。腹の痛みは治まったと嘘をついた。お袋は読経を続けた。
 
現在、77歳のお袋は読経すらままならなくなった。それでも毎月、1万1千円の会費を払っている。お袋にとって会費は最後の信仰とのつながりである。信仰は家族に対する罪の償いだと言う。家庭を顧みなかった。親父の暴力から逃げた。息子たちの面倒より他人の面倒を優先した。お袋はそのことに罪の意識を感じていると言う。死ぬまで背負うべき試練であるとも。俺はチンコの件を封印するつもりだ。少なくともお袋には言わない。だが、ここに書いた。お袋は味方だ。それは変わらない。だからこそ事実に目をつぶるわけにはいかない。
 
俺は結婚しない。お袋の不幸な結婚生活を間近で見てきた。結婚には大人の責任が伴う。俺はまだ大人の責任を自覚できていない。お袋の罪を背負う気もない。
  
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いままでの「絶望男の逆襲」

2007.7.12 第1回「笑顔のない男」
2007.7.18 第2回「孤立感」
2007.7.23 第3回「天涯孤独になるまで」
2007.7.30 第4回「やせ我慢」
2007.8.8 第5回「絶望の根っこ」
2007.8.27 第6回「人間のクズ」
2007.8.27 第7回「登校拒否」
2007.9.3 第8回「昼夜逆転」
2007.9.3 第9回「無常」
2007.9.10 第10回「人から逃げよう」
2007.9.25 第11回「欝屈」
2007.9.25 第12回「願わくば」
2007.10.9 第13回「家族と孤独」
2007.10.22 第14回「歪み」
2007.10.22 第15回「否定できないもの」
2007.11.26 第16回「精神障害」
2007.11.26 第17回「だるま」
 

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2007年11月26日 20:15に投稿されたエントリーのページです。

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