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絶望男の逆襲 第15回「否定できないもの」

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第15回 否定できないもの
 
去年の4月、俺は胃炎になった。夕飯を無理して食った。脂分コッテリのフライドポテトと加工品の偽カニカマボコだ。腹は一杯だった。だが、残せない。気分の悪さをこらえて完食した。途端にのたうちまわった。救急車を呼んだ。1週間苦しんだ。その後は食い物に気をつけている。
 
子供の頃から食い物を残すなと親父に言われ続けた。ご飯ひとつぶでもこぼすと拾って食わされた。以来、食い物を残せなくなった。加工品も脂物も関係ない。食い物を粗末にすることが許せない。
 
今は賞味期限が過ぎれば何でも捨てる。まずいとか、口に合わないとか。残しても食えないという理由で食い物は生ゴミと化し、腐臭を放つ。流しのゴミ捨て場を見た。漬物が大量に捨ててあった。嫌な気分になった。
 
まだ、大人の腰辺りまでの背丈の頃、親父に連れられ、一杯飲み屋に行った。俺は親父を見上げた。酒を次々に飲んでいる。仕事の帰りなどに一杯ひっかけるような酒屋だ。客は立ち飲みになる。夜9時を過ぎた。看板だ。店長が俺にコカコーラの1リットル瓶をくれた。71年当時のコカコーラは高級品だ。ガラス瓶入りのコーラを渡された。ペットボトルなど影も形ない時代である。瓶はズシリと重い。10歳のガキは瓶を抱きかかえた。すでに泥酔状態の親父が店を出た。道路には車が走っている。親父はあっちこっちにふらふら歩く。車にぶつかりそうになる。俺は瓶をかかえたまま、親父を脇道に寄せた。奴は倒れかかった。川に落ちそうになった。服の袖を引っ張って脇道に。すると再び道路によろけた。もうダメだ。公衆電話でお袋に助けを求めた。俺は親父のあとを気をつけながら追った。お袋が来た。助かった。瞬間、1リットル瓶を夜道に落とした。ガシャン。ジュージューという音が耳に残った。翌朝、親父はコーラを落としたことを問いつめた。俺は白状。奴はひどく怒った。俺よりコーラに価値を置いていた。俺は自分を責めた。
 
俺は一切酒を飲まない。親父のようになりたくないからだが、奴の遺伝子を受け継いでいる。食い物に神経を尖らす辺りは親父そのものだ。そんな自分にムナクソが悪くなる。だが、親父の息子だ。否定しようのない事実である。かつて奴が自分の息子よりコーラに価値を置いた。これも否定しようのない事実だ。
  
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いままでの「絶望男の逆襲」

2007.7.12 第1回「笑顔のない男」
2007.7.18 第2回「孤立感」
2007.7.23 第3回「天涯孤独になるまで」
2007.7.30 第4回「やせ我慢」
2007.8.8 第5回「絶望の根っこ」
2007.8.27 第6回「人間のクズ」
2007.8.27 第7回「登校拒否」
2007.9.3 第8回「昼夜逆転」
2007.9.3 第9回「無常」
2007.9.10 第10回「人から逃げよう」
2007.9.25 第11回「欝屈」
2007.9.25 第12回「願わくば」
2007.10.9 第13回「家族と孤独」
2007.10.22 第14回「歪み」
 

コメント (1)

レイ さんのコメント

以前は白井さんの文章を読んでいると、とても痛かったです。
いまは、うまく言葉にできませんが、なにか頭のなかの見通しがよくなるような気がします。

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2007年10月22日 18:25に投稿されたエントリーのページです。

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