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第14回 歪み
10月に入った。秋らしくなった。夏の間はダラダラしていたが、気力や思考力が冴えてきた。行動力も出てきた。同時に金欠状態でもある。15日の年金支給日まで節約の日々だ。映画もDVDレンタルも控え目に。外出も。何事にも金がかかる。
子供の頃は貧乏でも遊ぶことで楽しくなれた。金の苦労など考えない。だが、家に居ると否が応にも貧乏を思い知らされる。グチャグチャのご飯。貧相なおかず。飯に味塩と醤油を混ぜて食う毎日。食えるだけマシだった。
親父は酒を飲んでは母に毎日暴力を振るう。子供の俺と弟はその様子を見続けた。シラフの親父は純朴そのもので優しさもあった。暴力など振るわない。酒が入った途端、鬼に変わる。どっちが親父か?子供心に混乱が生じた。親父は喜怒哀楽を嫌った。俺に笑うことも泣くことも禁じた。泣けば殴られた。女々しいと。笑えばバカにしやがってと怒鳴られた。親父への恐怖から俺は感情を抑える子供になった。弟にはそれらを許した。なぜかわからなかった。親父は弟を可愛がっていた。
夜中、奇妙な光景を目にした。便所に行こうと布団から起きようとした。チラッと横を見遣った。親父がお袋の上に載かっている。もぞもぞと何かしている。お袋をいじめている。そう思った。目を凝らした。お袋は苦しそうに見えない。暴力行為ではないらしい。暗闇のなか、俺は「何か」を察知した。触れてはならない。そう考えを変えた。ひどく不快な気分になった。普段、身体に暴力を振るう親父をお袋が自分の身体の上に載せている。しかも喜んでいるらしい。両親のセックス。子供心の混乱は増した。
親父は俺の要領の悪さを嫌った。飯を食うのが遅い。自転車にも乗れない。愛想がない。弟は愛想が良かった。自転車にも乗れた。親父の言うことを聞く要領のいい子供だった。あからさまに親父は俺と弟と比較した。次男は優秀。長男はダメ。親父は決めつけた。実際、弟は殴られなかった。俺は自分をダメ人間だと認識した。
親父が死ぬまでの30年間、俺は自分が何者なのかわからなかった。自分を恥ずべき人間で生きる価値のない人間だと確信していた。女を欲しながらも嫌悪した。他者と分かち合いながらも猜疑心を抱いた。触れ合いを望みながらも触れ合うことを怖れた。喜怒哀楽を隠し、他者を支配する妄想に快楽を感じた。世の中すべてを憎んだ。
今年のコトバノアトリエ新年会で女流映画監督と話をした。俺は自分の精神的にタフな側面を強調した。彼女は生きづらさ系ドキュメンタリー映画の題材になる人物を探していた。白井さんは強い。そういう人には関心がないと俺に言った。外された。世に出るチャンスを逃した。悔しかった。強さは側面に過ぎない。俺の内面には複雑怪奇な何かがある。見てくれや言葉だけでは判断できないし、してほしくない。真実は俺にさえわからない。
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いままでの「絶望男の逆襲」
2007.7.12 第1回「笑顔のない男」
2007.7.18 第2回「孤立感」
2007.7.23 第3回「天涯孤独になるまで」
2007.7.30 第4回「やせ我慢」
2007.8.8 第5回「絶望の根っこ」
2007.8.27 第6回「人間のクズ」
2007.8.27 第7回「登校拒否」
2007.9.3 第8回「昼夜逆転」
2007.9.3 第9回「無常」
2007.9.10 第10回「人から逃げよう」
2007.9.25 第11回「欝屈」
2007.9.25 第12回「願わくば」
2007.10.9 第13回「家族と孤独」
