投稿原稿 「駅のベンチ」―はじめて学校に行かなかった日― 藤山 隆(仮名)
僕は電車に乗って大きなレコード屋に行こうと思いました。その日は確か、運動会の予行練習の日だった。私服を着て、通学路ちょうど反対方向になる最寄り駅まで歩いていきました。学校にいかないことは決めていたので私服を着たまま親に見つからないように家を出ました。こっちに行けば学校、こっちに行けば駅という分岐する道があって、通学路と違う方に踏み出した時に、ちょっとこれは大きな一歩になるんじゃないかとわくわくしました。結果的にはあまりいい一歩とはならなかったのですが。とにかく駅まで20分くらいかけて歩きました。
でも、怖くて改札が通れない。田舎なので自動改札などなく人が切符を切っていたので、駅員の目が気になります。通報されるんじゃないかと心配になったのです。そこで一駅歩けば無人駅であることを思い出し、隣の駅まで歩くことにしました。隣の駅なんてこれまで利用したこともないし、どうやって行けばいいのかもわからなかったけど、だいたいの検討をつけて歩き出しました。
15分くらい線路を見失わないように道を歩いていると、迷わずに次の駅につくことができました。時計を見たのですが次の列車が来るまで20分くらいあります。田舎では普通のことなので、無人駅のベンチに腰掛けて列車を待っていました。その時に駅の横にパトカーが止まり、構内に警察官が入ってきました。無人駅なので改札などもなく、2人の警官がすっと入ってきて真っ直ぐに僕の所にやってきました。
僕はつかまってしまうんじゃないかと思って、逃げようとしたんですけど怖くて足が動きません。学校に行かないくらいで捕まるだなんて今考えたら、おかしいですけど14歳の僕はなぜかそう思ってしまいました。
警官は「昨日はこの駅を利用されましたか?」と聞いてきました。
僕は「いいえ」と答えると、「そうですよね」と一人ごち、向こうへ言ってしまいました。本当は「どうしてんですか」とたずねてみたかったのですが、何しろ、学校に行っていない中学生の身なので、おいそれとは話しかけられません。しかし昨日何か事件があったみたいで、警官の一人は誰かとトランシーバーで会話していました。
のんびりした警官の雰囲気から、そんなに大した事件じゃないんだろうなと思いました。面倒くさそうにひとしきり辺りを見回して警官たちは帰っていきました。また駅には誰もいなくて僕は一人ぼっちで椅子に座ったまま、ぼーっとしていました。
その日はよく晴れていて9月なのにまだ向日葵が咲いました。椅子に座っている僕は缶コーヒーを飲みのんびりした気持ちになりました。学校に行かないというのは、こんなにも心が安らぐことだったんだなと思いました。心が安らいだのは、もしかしたらぽかぽかした陽気のせいだったかもしれません。
その日だけのちょっとした息抜きのつもりでした。確かに女子にどうやら僕は嫌われているらしいことや、どうもクラスメイトに僕は下に見られているらしいことや、僕の友達はどうもクラスの中心にはいない人が多いことなど、気に入らないことはたくさんあったけど、いじめられてはいませんでした。それに、そんなに大それた不満でもなかった。
だから、まさかその後2年間、中学卒業まで学校に行けなくなるとはその日の僕は思ってもいませんでした。ただ、その日は晴れていて、それは気分のいいことでした。教室の中にいるなんてもったいないなとか、そんなことをちょっと自分で思いかけたんですけど、それよりも、とても心地のいいものだったということだけ印象に残っています。
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