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第6回 人間のクズ
何年だか忘れた。俺が17歳の頃だから、1978年だったと思う。8.26という数字だけは覚えている。プロレス夢のオールスター戦。8年ぶりに馬場と猪木がタッグを組み、ブッチャー、シン組と闘ったプロレス史に残る日だった。その夜、3分枠のニュース映像で試合の様子を見て、えらく興奮した。
翌朝、父方の親戚が突然やって来た。予告なしに。俺は当時、会社の寮の一人部屋を与えられていた。が、まったく働かず、ひきこもっていた。嫌な予感がした。同じ寮の家族部屋に連れて行かれた。
部屋には両親と親戚がずらりと鎮座していた。父の妹の鬼婆が勉強机に突っ伏す俺に怒鳴った。「なんで働かないんだ!この役立たず!」と抜かした。クソ暑さが鬼婆の神経を高ぶらせる。「勝美は甘えてるよ。これも文子さんの育て方のせいです」。口撃の矛先は母にも向かった。シラフの父は静かだった。俺は働かない理由を夜眠れない(事実)と言った。他にも何か話したら「弁舌爽やか」などとほざきやがった。鬼婆どもは俺の立場や事情を無視し「敏明が可哀想だね。一人働いてさ。立派だ」と弟を誉めた。そして沈黙する俺に「長男なのにだらしない。お前が家族を養う役目なんだ。わからないか。働かないお前は人間のクズだ」。“弁舌爽やか”は鬼婆どもの方だ。
午後まで続いた。翌日から仕事に出されることになった。奴らは工場長に俺を働かせるように話した。その夜、親父は酔っ払って、暴れ狂った。俺は一人部屋で眠れない夜を過ごした。
頭がボーッとしていた。朝の陽光がなまった身体を貫いた。木材加工の仕事は肉体労働。しんどい。奴らの陰謀で嫌々仕事に出た。
1週間経った。鬼婆から電話があった。母が受けた。その話を伝え聞いた。「やっぱり文子さんと勝美はろくでなしの役立たず」と言ったそうだ。奴らの要望どおり働いたのになぜ?わからない。俺は怒りに打ち震えた。
翌朝はドアの鍵をロックした。誰が来ても開けなかった。布団に潜り込んだ。再度、ひきこもりに入った。
8月になると、この日を思い出す。親戚のアホども(母方とも)とは父の死後、縁が切れた。
親父に対する殺したいほどの憎しみは奴の死で霧散した。奴はこの世にいない。だが、親戚のクソどもは皆殺しにしても何の罪悪感も感じないだろう。
親戚はどいつも金持ち。貧乏はうちだけだ。それは今も変わらない。格差社会は今に始まったことじゃない。
人間のクズと奴らは言った。社会から見れば俺は非生産的な役立たずだろう。だが、親戚どもは生産的なのだろうか。奴らを支えているものを見据えてみたい。そこに答えが見出せる。社会的概念という敵は奴らの後ろにいるのだ。
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いままでの「絶望男の逆襲」
2007.7.12 第1回「笑顔のない男」
2007.7.18 第2回「孤立感」
2007.7.23 第3回「天涯孤独になるまで」
2007.7.30 第4回「やせ我慢」
2007.8.08 第5回「絶望の根っこ」
