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第1回 フリーター女二人暮らし
7月2日
高校時代の女友達(ナホ、仮名)と同居することになった。
28歳と29歳、
派遣OLとカラオケスナックのバイトの独身女二人だ。
実家から(こっそり)持ってきたそうめんやら
3個入り98円の納豆やらで
食いつなぐ日々。
家の中に漂う、
私のとは違うシャンプーや
ボディローションが混ざった「女のかおり」。
「お帰りー」
スナックバイトの帰り、
酔っ払ってテレサ・テンを口ずさんでいる私を
爆音のロックが出迎える。
風呂上り、
タオルを巻いてすっぴん&メガネで
冷たい茶なんかぐびぐび飲んだ日には、
「この世に男なんかいたっけ」という気分になる。
ナホは、胸と尻が「ぼーん」と張って
ウエストのくびれた何ともエッチなダイナマイト・ボディ。
くっきりした目鼻立ちに濃い化粧、
腰まである黒髪をなびかせ、
原色の服で歩く。
背が高いので
ヒールを履くと180センチ近いのではないかと思う。
高校を卒業し、美容専門学校に行き、
美容師として数年働いた後、
ロサンゼルスでメイクアップの勉強と仕事をしていたが、
就労ビザが降りず泣く泣く日本に帰ってきた。
そして金を稼ぐために派遣の仕事を始めたのだ。
外資系証券会社の受付、老人ホームの介護士、
運送会社の配送手配事務・・・・・・と、
彼女の仕事は数ヶ月単位で変わる。
ナホにはロサンゼルスが合っていた。
ナホの暮らすLA郊外のアパートに遊びに行ったとき、
カリフォルニアの太陽の下で
彼女はまさに水を得た魚だった。
笑顔がはじけ、そこらじゅうから養分を吸収して
すくすくと育つ土地の植物のようだった。
高校時代、
必ずしも英語の成績がよくはなかったはずのナホは、
英語でふざけ、英語で悪態を吐き、
英語を自在に操っていた。
国籍も肌の色も違う友人たち、
お気に入りの服屋やコーヒー屋、
週末のパーティ、
少しずつキャリアを積み始めていた仕事、
自己主張を歓迎するあっけらかんとしたコミュニケーション。
でも日本にはその全部がない。
久しぶりに渋谷で会ったときナホは、ひきこもり気味なんだ、
胃薬を飲んでいるんだと言った。
わかってたんだけどね、
メイクアップ・アートの仕事なんかアメ人の若い子だってみんなやりたいでしょ、
そういう子が集まってくるでしょLAには、
だからホントにやっていくには飛びぬけて才能があって
認められなきゃいけない、
アメ人と同じレベルで勉強してる時点でもうダメなんだよね、
わかってたけどわかんないふりしてたっていうかさ、
だましだまし? ていうの?
「ただいまー。あれ、何してんの?」
ある夜、帰ってくるとナホは台所の堅い椅子に片膝を抱えて
『バンギャル・ア・ゴーゴー』を読んでいた。
分厚い上下巻の、下巻の半分くらいのところに指を挟んで、
彼女はこっちを見た。
「うん。これ、何だか私が書いたみたい」
ヴィジュアル系バンドの追っかけを描いた、雨宮処凛の小説。
「好きなこと」に命を掛けながらどんどん生きづらくなっていく
十代の女の子たちの話だ。
どうして彼らはあんなにもすばらしいのだろう、
どうして手が届かないんだろう。
そしてそれに引き換え、どうして私はこんなにも、
何者でもないんだろう。
そんな切実さに胸を詰まらせながら読んだ。
「この子たちとおんなじこと、たぶん私今もしてる」
ナホはつぶやく。
そうだ、
私たちはたぶんこの主人公たちの10年後の姿。
大人は、なってみればまったく予想と違っていた。
あの頃思い描いていた像
――大きな流れに有無を言わさず絡め取られ、
引かれたレールから降りることも出来ず
つまんない仕事を一生やるか、
結婚して子どもを産んでチマチマと家計を計算する
平凡な専業主婦になる――
は、「逃れたいもの」どころか、
現実は「なりたくたってなれないもの」だった。
それを見て見ぬフリしつつ、
「やりたいことがあるんだもん!」
「ブスで才能のない女から先に結婚してくんだよね」と言い合う。
あれほど嫌悪していた「平凡さ」が
実は手の届かない「安定」というものだったなんて、
そんなの今さら知らされて、私たちはもう、
やけくそでガハハと笑うしかない。
朝の早いナホは、あくびをしながらうーんと伸びて、寝に行ってしまった。
「ねーそういえばー、理恵ちゃんちって中華だしあるー?」
メイクを落とす私の背中に、
電気を消したベッドの方から眠そうなナホの声が響く。
「なーい。コンソメで代用してるー」
「じゃ明日買ってくるねー。粉末の中華だしでゴーヤチャンプル作るとうまいんだぜー」
服を交換し合って、
「野菜たっぷりごはん」を自炊して、
「五本指スリッパ」で足をリラックスさせて、
ベッドのマットレスの下でパンツの寝押しをする。
こういうの、生きる力って言わないっけ?
無防備なナホの寝姿は私を温かい気持ちにさせる。
日々の生活は続く。
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コメント (1)
なんでスナックかね?
それで貧しさ気取ってもうそっぽいね。
投稿者: 樹海愛好家 | 2007年07月14日 01:32